【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難


王宮舞踏会が数日後に迫ったある日。

午後の休憩時間になる少し前、シルディーヌは黒龍殿にあるキッチンでお茶の準備を始めた。

侍女寮から持ち込んできたかわいい花柄のティーセットは、アルフレッドと一緒に出掛けたあの日に商店街で手に入れたもの。

もちろん紅茶も、あのときアルフレッドに買ってもらったアーセラだ。


「アルフは、飲んでくれるかしら」


なにしろ、シルディーヌがアルフレッドにお茶を入れるのは初めてのこと。

二人分を用意したポットにティーコゼーを被せ、ちょっぴり緊張しつつも団長部屋へ向かう。

お茶がほしいと言われたわけではない。

だからせっかく持って行っても、茶を飲む時間はない!と無下に追い返されるかもしれない。

けれど、シルディーヌはペペロネに言われたのだ。


『それなら、紅茶をいれてみたらどうかしら?』と。


快適空間作りを目指してがんばっているが、ちっとも上手くいかないと話したら、そう助言されたのだった。


『シルディーヌが入れたものなら、きっとおいしさも百倍違うはずだわ。疲れもなにもぜーんぶ吹き飛んじゃうわよ』


そう言ってにっこり笑ったペペロネに対し、正直“百倍おいしい”とはオーバーだと首を傾げたシルディーヌだったが、たしかに、アルフレッドはお仕事が忙しくていつも大変そうなのだ。

ほっと一息入れる時間があるといいのかもしれない。

空間ばかりに気を取られており、そこを使う主の心を癒すことには目を向けていなかった。

さすがしっかり者のペペロネだ、着目点が違う。


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