【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難


王太子殿下にぐいぐい手を引かれ、シルディーヌは中央に導かれていく。

まだ返答もしていないのに、王太子殿下はお構いなしの様子。

女性に優しくおおらかで快活なイメージがあったが、案外強引だ。

王太子殿下は戸惑っているシルディーヌに柔らかい微笑みを落とし、流麗にダンスの始まりの礼を取る。

見惚れる様な所作、サラサラと揺れる髪、じっと見つめてくる優しい瞳、完璧なリード。

この気品と威厳と麗しさは、上流の貴公子でも到底対抗できない。

王太子殿下のすべてが太陽のように光り輝いて見え、金も宝飾品もすべてがかすんで見える。

周りの人などまったく目に入らず、ふたりだけの世界に入り込んでしまったかのような錯覚に陥る。

スローな曲調なこともあり、ほわほわと空に浮かぶ雲のような夢見心地でいるシルディーヌに、王太子殿下はなんとも優しい笑顔を見せた。


「急に誘って悪かったね。うるさい叔母から少しの間逃避したくてね。ちょうど君を見かけて、声をかけてしまった。もしかして、探し物の最中だったかな?」

「いえ、大丈夫です。でも、殿下にも、苦手なお方がいらっしゃるんですね?」

「ああ、いるよ。早く結婚しろとおっしゃって、ご自分のお気に召した女性を次々に紹介してくるんだ。まったく、うるさいことだよ」


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