【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
殿下がチラリと目をやる方には、シルバーのドレスを纏った気品あふれる年配のご婦人がいる。
殿下と踊るシルディーヌを見る目はきつく、なんだか値踏みをされているよう。
全身から厳しそうなオーラが溢れ出ており、殿下ばかりでなく、誰もが苦手とするタイプに思えた。
「私がこんなふうに不満を言っていること、内緒にしておいてくれるかい?」
王太子殿下はささやくような小声で言うから、その甘い声の響きで悩殺されそうになる。
「シルディーヌ。誰にも、だよ。いいね?」
とどめとばかりにいたずらっこい微笑みを向けてくるから、シルディーヌは声も出せずに何度も首を縦に振った。
こんな“君だけにしか言わない”みたいな特別感を出されたら、女性なら誰でも胸を射貫かれてしまう。
王太子殿下は結構女たらしのようだ。無自覚かもしれないが。
「あの……殿下は、まだお相手をお決めにならないんですか?」
「ああ、もう少し自由でいい。まあ、実を言うと少し気になる女性がいるにはいるんだが……これが、気難しい男に“手を出すな”と釘を刺されている。上手くいかないものだよ」
「そうなのですか」
なにもかもを身に備えていて、なんでも簡単に手に入れられそうな王太子殿下でも、人の心を手に入れるのは難しいらしい。
けれど、こんな素敵で女たらしの王太子殿下に求愛されたら、恋に落ちない女性はいないと思う。