【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
王太子殿下の行動を止められる気難しい男というのは、よほど力のある人物なのだろう。
国王か宰相あたりだろうか。
「ああそうだ。気難しい男といえば。私は、君に礼を言わないとならない」
「ええっ、殿下が私にお礼なんて、滅相もございませんっ。そもそも私はなにもしていませんっ」
「ん? ああそうだな、君自身は、そうかもしれないな」
殿下はくっくっくと声を殺すように笑い、シルディーヌは頭の中に大きな疑問符をいくつも浮かべた。
「でもそれでも、言わせてくれ。我が国一番のカタブツで気難しい男を社交の場に引っ張り出してくれたこと、本当に感謝するよ」
「は、カタブツな人を、私がですか?」
「ああ、そうだ。君しかできない事だったよ」
「……はい? そう、なんですか。ありがとうございます」
「それはそうと、君は視線を感じないかい?」
「え?」
「なにかが身に刺さるような。そうだな、たとえば、身が凍り付くような恐怖を感じないか?」
恐怖を感じると言いながらも、王太子殿下は平然としているように見える。
笑顔を浮かべており、緊迫感はない。
シルディーヌは恐怖は感じないが、王太子殿下を狙うご令嬢たちの「あれはどこの誰なの!?」的な、嫉妬の視線を浴びていることだけは分かっている。
けれどそんなことで王太子殿下が恐怖を感じると言うはずもない。