眠れぬ王子の恋する場所
「パズルしてたら、久遠さんがいつの間にか寝てたんですよ。一時間くらいだと思いますけど」
まだぼんやりしている顔を見ながら「身体、痛くありません?」と聞くと、久遠さんは「別に」とやっと声を出した。
久遠さんは、それから「あー……なんとなく思い出してきた」と後ろ頭をガシガシとかきながら言い……ローテーブルの上にあるパズルに目を留めた。
「あ。これ、あとワンピースで完成です。はい」
残りのワンピースを渡すと、久遠さんは受け取り納得いかなそうな顔をする。
「これはめれば完成なら、さっさとそうすればよかったんじゃねーの?」
「そうですけど、最後のひとつは久遠さんがはめたいかと思って」
驚いたようにわずかに目を見開いた様子を不思議に思いながら見ていると、少ししてから久遠さんがパチッと最後のピースをはめる。
500ピースのパズルはなかなか圧巻で、出来上がりに満足感を覚えた。
「これ、ゴッホの絵らしいですね」
パズルを見ながら言った私を、久遠さんが意外そうな目で見る。
「まさかおまえ、画家とか詳しいのか?」
「え。いえ。なんか〝画家〟〝ヨット〟〝有名〟で検索かけたら出てきただけです。芸術とか疎いので、正直ゴッホだってひまわりくらいしか知りませんし」
「ああ、俺もひまわりなら知ってる。……その前にこれ、ゴッホだったのか」
感心したように言われ、今までなんだと思ってパズルしてたんだろうと疑問に思う。
そもそも買うときに気に入ったからとかそういう理由で手にとったんじゃないのかな。
「あ。そうだ」
パズルを眺めているうちにある事を思い出し、立ち上がる。
そして、部屋の棚の上にある電気ポットの前に行き、カップにお湯を注いだ。
無色だったお湯に、ティーパックから染み出した黄緑色が広がっていく。本当なら湯呑み茶碗がいいんだろうけれど、ないから仕方ない。
カップの八分目までお湯を入れてから、それを持ち、久遠さんの前に置いた。