エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 足もとに転がってきたボールを片手でひょいっと拾い上げ、指先でくるくると回したあと、サーブの要領で隣のコートにいる部員にボールを返す。
 結構な距離があるのに、相手の手もとにストンとボールが落ちた。

 そのしぐさも、ボールの描いたやわらかい曲線も、何もかもがきれいだった。


 しばらく練習を続けたあと、二階堂さんがこっちに向かって歩いてきた。
 そして、私の座っているパイプ椅子の前に立ち、膝に載せていたドリンクに手を伸ばすと、キャップをはずしてごくごくと喉を鳴らしながら飲んだ。

 彼の額に浮かんだ大粒の汗が、頬を伝って落ちていく。

 二階堂さんはドリンクボトルをふたたび私の膝に置き、頭にぽんと触れると、ふたたびコートのなかに戻って行った。

 ――そういうこと、しないでほしい。

 私はうつむいて、ぎゅっと目をつぶった。
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