私に触れて、そして殺して


「あ、こんにちは」


続けて出て来たのは
カップルの女の方だ
何度か挨拶をした程度
それでも覚えてくれていたのかと思うと
少しホッとした


『あの、三吉さんは…』



三吉さんは引っ越したのか
聞こうとしたが、口を閉ざした
だって、忘れ物ですか?と聞いて来た
それは、この部屋に帰って来たということではないのは明らかだ

この部屋には
もう、誰も住んでいない



「あれ?靴、どうしたんですか?」


指摘され
どう答えていいか…
ごめんなさい、とだけ言い
アパートを後にした


三吉さんに
もう会えないのかもしれない
そう思ったら
わたしの中で何かが崩れ落ちて行った


ひとり…
私は一人だと
初めて感じてしまった

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