君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
しっとりとした歌を、優しい気持ちを込めて歌う。
ここにいる人たちが、どんな気持ちで会談を行ってきたのかはわからない。
だけど、少しでも優しい気持ちで終わってもらいたい。

そんなささやかな願いを持って…。

って、あれ?

視界の端で捉えたカナトの様子がおかしい。
みるみるうちに表情が険しくなっていく。

どうしたの?

よく見ると、ドルツの王子が横で何やら囁いている。

嫌な予感がする。

カナト…。

「そんなことするはずないだろ!」

怒りのこもった声とともにカナトが急に立ち上がった。
ガタンと椅子が音をたてて後ろに倒れる。

ぴたりと、演奏も歌もやんだ。

しんと静まり返った会場。

怒りのこもった眼差しでドルツの王子を見るカナトは、今にも掴みかかりそうなほど。
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