君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
落ち着け落ち着け。
人という文字を手のひらに書いて飲み込む。

一歩一歩踏みしめるように出ていくと、その場の人々の視線が私に集中する。

う…。

お偉いさんばかりという初めての環境に、思わず怖じ気づく。

でもそんな私の心は置いてけぼりで、後ろにいる演奏隊が静かに音楽を奏で始める。

落ち着け。

一呼吸ついて、前を向く。

すると、奥にいるカナトと目が合った。

あ…。
やばい。緊張が伝わってるかな。

その時、カナトの口が動いた。

“がんばれ”

誰にも気づかれないようにこっそりと送ってくれたエール。

それは何よりも心強かった。

同じように気づかれないように、うん、と小さく返すと、肩の力が抜けていく。
さっきまで強張ってた表情も、柔らかくなっていくのを感じる。

よし、歌おう。
どこにあったって、音楽は、楽しいものなんだから。
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