君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
「こんばんは」

「ひっ…」

突然鏡の向こうから男の人の声がした。

え、なになになに?

蠢く黒い影に全身に緊張が走る。
これって、どうしたらいいの?
逃げるべき?戦うべき?
戦うって言ったって、何もできないでしょ、私。

怯えきった私の前に姿を現したのは、貴族のような格好をした、スラッとした男性。
短髪の黒い髪もしっかりセットしてある。

その格好に不思議と何の違和感もない。
というか、しっくりきすぎてる。

どこかの劇団の人?

彼が舞台に上がればきっと誰もが目を離せなくなる。
それくらい華麗で、整った顔立ち、着こなしをしている。

現に私も目を奪われている。

「ごめん。
驚かせるつもりはなかったんだ」

良く通る良い声。
完璧だ。

って、うっとりしてる場合じゃない。

もしかしてここ、よその劇団が使ってる控室?
私がこの人の邪魔してた?
なんてことだ。
早くここから出ないと。

「いえ、あのこちらこそすいま…」

しかし、私が謝る前に、彼は続けた。

「君が来るのを待ってたんだ」
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