君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
でもカナトは静かに首を横に振った。

「それは無理だ。
この世界から君の世界へ行く方法を誰も知らない。

それに、僕は君を帰す訳にはいかないんだ」

「…戻れないってこと?」

うそでしょ?
戻る方法を知らない?無いってことなの?
私、そもそもどうやってここに来たの?

混乱はピークに達し、足の力が抜けていく。

その場に座り込み、絶望感に支配される。

劇団が危機だってときに私は何やってるのよ。

プレッシャーに押し潰されそうで、逃げ出したいって思ったけど…。
こんな形で逃げ出せたって、結局劇団のことを考えちゃうのよ。

私が歌わなきゃ。
劇団の為にもっと上手くならなきゃ。
そう思って今まで頑張ってきたのに、この有り様。

「ははっ」

あまりの情けなさに乾いた笑いがこぼれる。
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