君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
さてと。

鏡の部屋に神楽弥が現れたこと、そして今現在その部屋に隠れていることを、シンには伝えておいた方がいいだろうか。

そう考えて、彼女とのやりとりを思い出す。
真っ先に甦ってきたのは、出かける時の様子。

部屋を出ようとしたとき、何か物足りなさを感じたんだ。
それで足が勝手に神楽弥の方に向いて、気がついたら頭を撫でていた。

あの時の見上げられた視線には、心を掴まれた。
そして、この手で守らなければならないと、強い使命感が芽生えた。

手には柔らかな髪の感触がまだ残っている。

「駄目だ、もう会いたい」

さっきまで一緒にいたというのに、もう彼女が恋しくなっている。
今すぐにでも走って向かえないのがもどかしい。
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