100点テストの祈り鶴
彼は一番最初に作ったであろう鶴を指で撫でる。
「俺ね、一杯願掛けしたんだよ」
次いで二番目に作った鶴を撫でた。
「花村さんが笑いますように。花村さんに友達が出来ますように――……」
三番目、四番目、順々に触れていく彼の指先を只々見ていた。
その指はとても優しい。
「勝手に花村さんに対して願掛けして、気持ち悪いって思われるかもしれないけどそうして行くうちに、どんどん気になってさ」
気持ち悪いだなんて思わない。むしろそれは幸せな事で、私の事を想ってしてくれているなら尚更。
「俺、自分の為に願っちゃったんだよね。『花村さんが俺の名前呼んでくれますように』って」
そう、当時は苗字ですら呼ぶ事が出来なかった。男の子の名前を呼ぶ事が恥ずかしかったのだ。
それを呼べるようになったのはいつだったか、本当に些細な事で、授業中に居眠りをした彼を起こすようにと先生に言われ、揺すっても起きないからその時に名前を呼んだのだ。
「夢かなって思ってたんだけど、それ以降睦月って呼んでくれてさ」
そうだ。それ以降はある意味吹っ切れて呼ぶ事に抵抗は少なくなったのだ。未だに少し恥ずかしいけれど。
「そこから調子に乗って花村さんにって自分の為の願掛けをしてたんだけど、まったく叶わなくて。だからこそ、俺の願掛けが叶ったように見えたのは花村さんが自分から行動して変わろうとしていたからだなって実感した」
違う。そうじゃない。私はいつも彼に引っ張り上げて貰っていただけだ。
「む、睦月君がいたから、そうしてくれたからだよ」
精一杯自分の言葉を吐き出した。