冷血部長のとろ甘な愛情
「神原さん、悪いんだけど、ちょっと話が出来るかな? 今、急ぎの業務ある?」

「メールの返信を作成していて、これが終われば大丈夫です」

「終わったらでいいから、ミーティング室に来て」

「分かりました」


入力した文を確認して、送信をクリック。もう一件、返そうと思っていたのがあるが、これは後回しにしよう。

まずは部長のところに行ってからだ。待たせて機嫌を損ねられたくはない。どんな人か把握出来ていないから、穏便に済ませるよう動く。これが大事。


「奈由ちゃん、ちょっと行ってくるね」

「はい。チャンスですね。しっかり観察してきてくださいね」


昼休みの話の続きを出す彼女に苦笑して、ノートとペンを持った。

ミーティング室のドアをノックして、中に入る。ファイルを見ていた部長の向かい側に「お疲れさまです」と声かけして座る。


「忙しいのに、悪いね」

「いえ、大丈夫です」


こうして二人だけで話すのは平沢部長が着任して以来。まだ数日しか経っていないが。

部長はファイルの表紙をこちらに向けた。そのファイルは去年の秋に10社の国内文房具メーカーが集結して開催された展覧会のものだった。
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