冷血部長のとろ甘な愛情
坂本くんの方が先に出たけど、まだどこかに姿があるのではないかと目だけを動かして周囲を見た。見える範囲にはいない。

よかった。

いや、よくない。

こんな男に捕まるなんてよくない。


「なんかムカつくな」

「はい?」

「まあいいや。帰るんだろ? ほら行こう」

「ええっ、何で?」


不機嫌な顔をした部長は私の手を握って、駅の方へと歩き出す。帰るって一緒に帰る?

何でそうなるのよ。

文句を言いたいけど、文句を言うとまた何か聞かれるかもしれないし、さらに不機嫌になるかもしれないと思ったら何も言えなかった。

仕方なく引っ張られる形で駅まで行く。


「あ」

「えっ、あ。部長……と神原さん」


駅前のコンビニから缶コーヒーを手にした坂本くんが出てきた。まだこんなところにいたとは……。

坂本くんは私と部長が一緒なのに驚いたようで動きが固まっていた。


「ビックリした。坂本くん、お疲れさま」

「あ、お疲れさまです」

「白々しいな」

「えっ?」


部長は握る手の力を強めて小さく息を吐いた。何が白々しい?

まさかホテルから出る坂本くんも見られていた?
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