EGOIST

1

イアンはキーボードを叩いていた手を止め、ぐっと目頭をマッサージするように押さえた。

「お疲れ様です」

と、背後から伸びてきた手が、机にマグカップを置く。
その腕を辿って声の主に視線を向けると、そこにいたのはエレンだった。

「おう、今日の外回りは………その調子だと大きい成果はなさそうね」

イアンの言葉に、エレンは肩を竦めた。
そして、近くにあった椅子を引き寄せ、腰を下ろす。
その動作は彼女にしてはやや乱暴だ。
それが彼女のここ数日の疲弊ぶりを現していた。

「もとより、簡単に行く相手だとは思っていません」

そう言い、エレンは自分の持つマグカップに入った紅茶を一口飲んだ。

「まぁ、しゃぁないっちゃぁしゃぁないんだけどな。今回はまだ何も起こってない」

そう言いつつイアンはズズ、と紅茶を啜った。

イアンの言う通り、今回は特に大きな事件が起きているわけでもなければ、その兆候があったわけでもない。

事の発端は約1ヶ月半前、エレンが記者2人に付けられるようになる少し前の話。
その頃、アルマ殲滅派を唱える政治家の一部が頻繁に地下街などに出入りするようになったことを知人から聞き、その動向を探り始めた。
すると、少し前に7年前にある大事件を起こした男が役務所からいなくなっていることが発覚した。

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