EGOIST
「何が正しくて何がまちがっているかの答えは、たぶんない、と思います。だって、人によってそれはちがうから」

考えて、言葉を選んで、それらが紡がれていく。

「だけど、きっと大切な何かのために正しくあろうとすることは、絶対にまちがってなんかない」
「…………大切な、何か?」

そう聞き返すと、こっくりと頷いた。

「あなたはなんで、こわせという声に逆らうんですか?」
「なんでって………それは駄目だろう」
「なんでダメなんですか?」
「だって、そんなことをしたら俺が俺じゃなくなっちまう。俺をあそこから連れ出してくれた奴らの行動を無駄にしちまう。それは、嫌だ」
「なら、それはあなたにとって正しいことなんです」

そう、静かに言った。

「どんな理由だろうと、あなたにとってそれが大切なもので、それのために正しくあろうとしているなら、それは絶対にまちがってない」

その声は静かで、しかし力強さも秘めている。
その言葉は何の抵抗もなく、すとんと心に落ちていく。
少しだけ、何かが軽くなる。

しかし、それは自分勝手な考えではないのか、と思う。
そんなのは結局のところ自分が勝手に嫌だと思っていることであって、周りからすると迷惑この上ないことなのかもしれない。

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