EGOIST
「あの子達はいわば害獣だ。それがこうして人のために立つのなら本望だろう、なんて、彼は言ったわ。私には、とてもそうは見えなかった。だから、彼から隠し通路を聞き出して、忍び込んだの。何人も子供がいたけど、私には、あの子達しか連れ出せなくて………」

蘇るその時の恐怖と後悔。
机の上で組んだ手に力が入る。

その手を優しく包む物があった。
それはエレンの手だ。

「駄目ですよ、自分を責めては。貴女は確かに多くの者を置き去りにしたけれど、確かに救った物があった。それは誇るべきことだと、私は思います」

そう言って、エレンは小さく笑みを浮かべた。
その笑みがひどく優しく、アンジェリカの目から、涙がこぼれた。
次から次へとこぼれるそれはなかなか止まってくれない。
エレンはそんなアンジェリカをただただ見つめていた。

「ごめんなさい、突然泣いたりして………」

アンジェリカの言葉に、エレンはゆるゆると首を振った。

「それじゃぁ、私はこれで。こんな国です。自分を売らなければ成り立たないこともあるとは思いますが、どうかご自分を大切に」

そう、エレンは言った。
そして、「それから」と続けた。

「これは忠告です。もう、あの研究所にも、貴女の雇い主のもとへも行かないことをお勧めします。とても危ないですから」
「それってどういう………」

アンジェリカが言葉の意味を訪ねた時には、エレンはもういなかった。



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