EGOIST
「逃がすわけないでしょ」

そう言いながら、男が近づいてくる。
ひょろりとしたその男は、丈の長い上着を羽織っているようだ、というところまではシルエットで分かったが、やはり顔までは見えない。

「私達を殺す気なの?」
「さてどうでしょう。まぁ、だとしたら殺し屋に背を向けて逃げるとか、自殺行為でしかないわけですが」

男は相変わらず軽い口調。
何を考えているのか分からない。
メイナードがスマートフォンで警察に連絡しようとポケットに手を伸ばした。

「させねぇよ?」

しかしその腕はそれより早くにまた糸状の物で締め上げられ、メイナードは痛みにうめいた。

こちらからでは男のシルエットしか見えず、何をしようとしているのか見えないというのに、男には2人の動作が丸見えのようだ。
暗視用のゴーグルか何かをつけているのだろうか。

どちらにしろ、妙な動きをすれば命はない。
現状はそう2人に思わせた。

「まったく、オタクらもむごいことをする。5年前の事件を掘り起こして。ようやく平穏を取り戻した女の子の辛い過去を思い出させて何がしたい」

男の声に、先ほどまでの軽さはない。

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