溺愛は突然に…
「…彰人さん、これ、出来ました」
「…」

差し出された書類を受け取った彰人の顔は、心なしか驚いてるように見える。

楓はこくびをかしげた。

「…あの、何か?」
「…思ってた以上に、早く出来たから」

…楓の見た目はおっとりしている。だから、彰人は仕事は遅い方だろうと勝手に思っていた。

少しムッとした楓には目もくれず、咳払いをした彰人は、書類に目を通した。

「…見やすい」
「…え?」

あれだけ乱雑に走り書きのような書類を、これだけ見やすく完璧に仕上げてしまった楓に、彰人はただただ感心した。

…が、全く顔には出ないところが彰人らしい。

「…いいよ、ありがとう」
「…フゥ…他には仕事ありますか?」

安堵の溜め息をついた楓は、次の仕事を聞いた。

「…楓ちゃーん、この書類、20部コピーしてくれる?」

向こうのデスクから、頼まれた楓は、笑顔で答えた。

「はい!わかりまし「…ダメ」

のに、彰人が割って入り止められてしまった。

当然、頼んだ側も、頼まれた側も、その手は宙に浮いて、止まってしまった。

「…楓の仕事は、俺が決めますから」
「…彰人~」

彰人の言葉に、他の社員達からクレームが飛び交う。

…ガチャ。

突然、社長室のドアが開いた。

「…楓ちゃん、今日、バイトが終わってからの予定は?」

楓の方に歩いてきながら、陽翔が問いかけてきた。

「…帰宅するだけですけど」
「…よし、じゃあ、行こう」

「…は?え?何処へ?って…」

デスクの上の楓のカバンを掴んだ陽翔は、もう片方の手で、楓の手をつかみ、楓は何処かに連行された。

…その場に取り残された社員たちが落胆したのは言うまでもない。

…ただ一人、彰人を除いて。
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