好きですか? いいえ・・・。
カニはすっかりなくなり、今まで放置していたその他の具材も一通り食べ終え、お母さんがシメに雑炊を作ってくれて、それを食べると、お腹がはちきれそうになった。
「ダメ……もう動けない。」
私は車椅子の背もたれに深く腰掛けて、お腹を押さえた。かなり膨れているような気がする。こんな姿をおちあ……いや、拓夢には見せたくない。
「こんな美味い鍋も雑炊も初めて食べました……千代子さん。ご馳走様です!」
机に額が付くほど頭を下げた落合くんを見て、私はハッとした。
「拓夢くん。キミ、どうして私の名前を知ってるの?」
「あ、ざい……いや、十志子から聞きました。」
「あら、十志子から? 他に何か言ってなかった?」
「年齢も聞きました。44歳だそうで……いやでも、オレ、初め千代子さんを見た時、お姉さんだって思いましたよ? 綺麗ですし。」
「まあ、お上手だこと……。」そう言って、お母さんは落合くんの肩に手を回した。
「じゃあ、今晩、私と一緒に寝る?」
「ダメ!」私は必死に止めた。
「おちあ……拓夢は未成年なんだよ? 何考えてるの! この酔っ払い!」
「あら、いいじゃない。拓夢くんは今年18歳になるんでしょ? 結婚もできる歳だし、私には相手なんていないし。ああ、それがいいわ! 拓夢くん、私と結婚しましょう! そしたら、今日みたいに一緒に食卓を囲めるわよ?」
「ちょ、ちょっと!」
必死に止めようとした。でも、落合くんの目を見て、驚愕した。
トロンとしている。
「ええ、是非! オレ、千代子さんのこと幸せにしますよ! そして、十志子のいいパパになります!」
落合くんの食べ終わった茶碗の傍には、グラスが置いてあって、底に泡が溜まっていた。お母さん、いつの間に落合くんに発泡酒を勧めたんだろう……。
「じゃあ、これからは私が『拓夢』って呼ぶわ。で、十志子は拓夢のことを『パパ』って呼びなさい? いい? わかった?」
「もう二人とも酔い過ぎ!」
私は交互に二人の頭を叩いた。「叩かれたわねー。」、「叩かれちゃいましたねー。」と言って、まるで私がそこにいないような反応をする。
ダメだ。手に負えない。私はお風呂に入ることにした。