【仮面の騎士王】
ケイトリンは大きな目を二度瞬いた。


 レイフは、一瞬真剣な表情になったあと、儀礼的に微笑んだ。


「終わったな。ありがとう、ケイトリン。あなたと踊れて楽しかったよ。幸せに」


(いったい、なんのこと? 子どもの頃、レイフ様にキスしたことかしら?)


 確かに、幼いころレイフの頬に口づけたことはある。だがそれは、あくまで挨拶としてのものだ。


『なんだ、覚えてないのか? なら、思い出させてやろう』


 不意に、仮面の盗賊の言葉が頭に浮かんで、ケイトリンの白い肌に赤みがさした。


(どうして、あの方のことを思い出すのかしら)


「ケイトリン!」と、ファビアンが自分を呼ぶ声に反応できる頃には、レイフはすでに遠くに去り、大広間から退室するところだった。


(ファビアン様と踊ってもちっとも楽しくなかったのに、レイフ様と踊るとあっという間に一曲が終わってしまったわ。なぜかしら)


 大広間に集まった貴族たちのほとんどが、レイフとケイトリンの踊りを最初から最後までうっとりと眺めていた。一緒に踊っている人々も、関心のないふりをしながら目の端に彼らを捕えていた。集団の中にいても優雅に踊る美しい二人はまるで絵画の様で、自然と人々の視線が集まった。


 レイフとの話に夢中になり、ケイトリンは自分たちがどれほど人々の関心を集めていたのかに、最後までまったく気付かなかった。



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