政宗かぶれの正志くん
サークルに入っていない私は授業が終わると割とすぐに学校を出る。


ただ、今日はゼミがあり、その後ゼミ生と話をしていたため少し遅くなってしまった。


「ヤバい…バイト、ギリギリだ」


左手にはめた腕時計は上京した時に祖父母から貰ったものだ。


それが、16時35分を指していた。


車は免許を取ったきり乗っていないペーパードライバーだし、自転車は2週間くらい前にサドルを盗まれて使用不能だから、徒歩で移動している今。


現在地からほのぼの食堂までは徒歩20分。


自転車さえあれば余裕なのに。


誰だよ、サドル取った奴。


いらないだろうが、そんなもの単品で。


あの自転車、どうするんだ。


代わりにカリフラワーでも挿せってことか。


2週間前の怒りが沸々と再燃してくるのをグッと押さえて、足早に校門へ向かう。


すっかり葉桜になってしまった大きな桜の木の横にあるそれが見えてきた時、ふと違和感を感じた。


何か、ざわついている。


いつもざわついてはいるけれど、どうもいつもと違うような…。


ああ、人の表情だ。


驚きとか、不信感とか、興味とか、好奇とか。


ただ、流れるように歩き去る日常にはない表情を皆が一様に浮かべている。


立ち止まっている人もちらほら。


心なしか端に寄っている。


知り合いを探してその理由を聞きたいところだが、あいにく私は今急いでいる。


この先に何があるのか、少しの興味を持ちながら、真っ直ぐ校門へと歩みを進めた。

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