僕の知らない、いつかの君へ
「なあ」
森田が聞いてくる。
「美貴ちゃんのパジャマってどんなん?」
いきなりの質問に思わずデカビタを噴き出した。
「あの、呼んどいてなんですけど、キモイです」
はは、と森田が笑う。俺もちょっとだけ笑う。
「彼女に、好きな人が出来たのかもしれないんです」
「へえ、そうなんや」
と森田は言った。
「彼女に好きな人が出来たら、お前は彼女のこと好きじゃなくなるん?」
「……そういうわけじゃないですけど」
「じゃあ、ええやんけ。両思いから片思いに変わるってだけやろ?お前が彼女のこと好きな気持ちとか、守りたい気持ちとか、そういうのは変わらんやろ」
「……でも、別れたら何もしてあげられないじゃないっすか」
「そんなことないやろ」
「そんなことありますよ」
「俺もちょっと前まで、そう思ってたんやけどな」
そう言って、森田はマンションを見上げた。
「このマンションに、美貴ちゃんが寝てるんやなあ」
「だから、キモイですって」
「俺、もう美貴ちゃんに告白するんは辞めようと思うねん」
マンションを見上げたまま、森田は言う。
「もし奇跡的に両思いになったとしよ、奇跡的にな。俺は関西の大学に行く。遠距離で美貴ちゃんを守れるんかって考えたらな、無理やねん。だから美貴ちゃんを愛する気持ちがあるならば、近くにいて美貴ちゃんを守れる男に譲るべきやって悟ってん。卒業までに美貴ちゃんと付き合いたいなんて俺の完全な自己満やろ?会えなくなるくせに、ただ美貴ちゃんのこと縛り付けて自分のもんにしたいってだけで」