S級イケメン王子に、甘々に溺愛されています。
私、ちゃんと預かっておくからね。
ダンッ!と大きな音をたててステージに飛び登る戸澤くんの後ろ姿に、私は心の中で呟いた。
「なこ、ごめん。全部背負わせて……っ」
戸澤くんは、勢いのままに叫びながら撫子様の手を掴んだ。
「響くん……!」
その手を待ち焦がれた撫子様が泣きながら戸澤くんを呼ぶ。
「……貴様ァ!!こんなことをして許されると思っているのか!?」
「わりーな、なこの親父!俺は庶民だから、いやしーんだよ」
同じステージに立ち尽くす椿がクスッと笑ったように見える。
「なこより大事なもん、俺にはねーんだ」
追っ手が迫る戸澤くんは、撫子様の手をしっかりと握りしめて、ステージから飛び立っていった。
叱れることをしているのに、戸澤くんも撫子様も逃げながら笑っていた。
ホールの出口へと駆け抜けていくふたりの背中は、とても自由に見えて、眩しかった。