【完】DROP(ドロップ)



「お疲れ様でしたー」



バイトが終わり、いつもの様に自転車を取りに向かった。


ガラーンとした自転車置き場には、誰もいなくて。



一瞬過ぎった、鈴ちゃんの

『巧ちゃーん』

って満面の笑み。



昨日、最後まで何も話さなかった鈴ちゃんは家に着くと黙って自転車から降り家へと入って行ってしまった。


いつもなら『巧ちゃん、家入って』だとか、『もっと一緒に居たい』だとか言うのに。



わかってくれたんだよな?

……でも昨日キツく言い過ぎたか?



徐に取り出した携帯でかけた相手は、松本だった。



《んぁ? 巧が電話してくるなんて珍しいなぁ。どしたの?》

「あー……鈴ちゃん、家いるよな?」



って『もう待つな』って言ったのは俺なのに。

保護者感覚ってやつかな。



《え? 巧の事、待ってねぇ?》

「え? 家、いないの?」

《あ、ちょっと待てよ。 母ちゃーん》



もう9時半過ぎてるんだぞ?


中学生が家に居なかったら普通は心配するだろーが、馬鹿兄貴。


苛々しながら待つと、再びマヌケな声が耳に聞こえだした。



《何か、遊びに行くって言ってて。で、さっき友達ん家に泊まるって電話あったらしーよ》

「あぁ?」

《なーにぃ? 巧ちゃん心配なのー?》



茶化す様に言う松本を無視して携帯を切った。




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