【完】DROP(ドロップ)



鈴ちゃんは必死に走るけど、俺は自転車。

簡単に追いついてしまった俺から逃げれないって気づいて歩き出す。



「鈴ちゃん、乗れよ」

「……」

「鈴ちゃん」

「……」

「乗れって」

「……嫌」



何回言っても、俺の方を見ず俯くだけ。

仕方がなく、自転車を押しながら隣を歩いた。



「鈴の事、彼女に出来ないんだったらほっといてくれないかな」



搾り出すような声は、切なげで哀しみに溢れていた。

だけど『はい、わかりました』なんて言えるわけねーじゃん。



「松本の妹だし、何かあったらどーすんだよ」

「……お兄ちゃんの妹だけどっ。こんな中途半端な事されたら諦めきれないでしょ?」



何も言えなかった。



鈴ちゃんは、ずっと松本の妹で。

年下で、今だってまだ中学生で。

恋愛対象っていうよりも、まず女として見た事なんてなかったから。

いっつも松本とくだらねぇ喧嘩ばっかしててガキだなーって目でしか見た事がなかった。



それが。



鈴ちゃん、そんな女の顔なんて出来るんだ?




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