【完】DROP(ドロップ)
「なにー? こんな裏で俺と密会?」
ちょっと冗談で言ったつもりが、圭矢に冷たく睨まれてしまった。
何だよ、冗談も通じねぇのかよー。
かけていたグラサンを胸元にかけ、被っていたキャップを脱いで頭を掻いた。
「ねぇ、奈央と何かあったでしょ?」
「へっ!?」
使われていないスタジオは、音が響く。
素っ頓狂な声は、まるでエコーがかかった様だった。
そんな俺を見て、やっぱりとでも言いたげな顔を見せて
「最近、奈央悩んでたみたいだし。……陸、変な事、言ってないよね?」
「何それ」
何で、お前が俺より奈央の事、知ってんの?
俺と奈央は、同じ時期からのモデル仲間で。
この業界では1番長い関係なんだけど。
それなのに、何で圭矢の方が知ってるわけ?
無性に苛立った俺は、そこで冷静になった。
何で俺……こんな苛々してんだろ、って。
キャップを被り直し、ナナメに掛けた鞄をギュッと握った。
普段、俺は鞄なんて持たない。
デニムのポケットに必要な物は収まるから。
だけど、今は。
その中には、奈央のストールが入ってる。
あれ以来、俺は奈央に振り回されっぱなしだ。