僕等の青色リグレット
「お邪魔します……」
「汚いところですけどぉ、どうぞ。今ぁ、お茶入れますね」
「あ、お構いなく」
部屋の中へ案内してくれた女性は私たちにソファへ座るよう勧めたあと、対面キッチンへ向かった。水が流れるジャーという音や、氷がグラスにぶつかる音がする。
少しして、冷たい麦茶とお茶菓が運こばれて来た。
「すみません」と頭を下げ、遠慮なくひと口いただくと乾いた喉がたちまち癒され顔が緩む。その様子を細めた目で眺めていた女性は、晴登くんの方へと視線をやった。
「あなたは宮司さんのところの息子さんねぇ」
「はい、大田和晴登といいます、こっちは北里さん家の孫で、」
「芙海です」
「まぁ、ハナさんところの。私は麻子の娘で絢子といいます」
絢子さんは私がハナばぁちゃんの孫だと分かると、お悔やみの言葉を掛けてくれた。
亡くなってからもう1年も経つのに、島の人に忘れられることもなく、親しまれている。そんなおばぁちゃんの人望の厚さに毎度、驚かされる。
「それで、母に用とは何かしらねぇ?」
「私たち学校の自由研究で調べていることがありまして。50年前の新聞記事について、麻子さんに尋ねたいことが……」
「50年前? どんな記事?」
「それは、あの」
亡くなった末娘さんに関してだと簡単に説明し、できれば麻子さんから直接お聞きしたいと伝えると、絢子さんは少し困ったような表情を顔に浮かべて、
「瑞子のことですか……覚えていればいいんやけどぉ、実は母は認知症なんです」
そう声を潜めて言った。