僕等の青色リグレット
何とも言えない沈黙が落ちた。
「そうなんですね」や「大変ですね」も、何か違う気がする。かといって気の利いた言葉なんて一切出てこない私はお茶をひと口飲んだ。カラりと氷の音がする。
初めは存命かどうか心配だったけど、まだ健在ということでホッとしたのも束の間。認知症を患っているとは予想外だった。
どうしたものかと考えていると、同じようにお茶を飲んでいた晴登くんが絢子さんに尋ねた。
「麻子さんに会えますか?」
「ええ、どうぞ」
「聞くだけ聞いてみようや、昔のことなら覚えているかもしれないし」
「うん」
絢子さんによると、麻子さんの認知症は長期記憶障害といって自分の家の住所や職業、伴侶の名前など本人なら知っていて当然のことを忘れてしまうもので、最近では世話をしている絢子さんのことも分からなくなっているらしい。
それでも時々、切れていた線が繋がったかのように昔のことを話しだすことがあるそうで、そこに僅かな期待を寄せることにした。
麻子さんはリビングから襖で仕切られた畳の間にいた。
そこに置かれた介護用ベッドの上に座り、ぼんやりテレビを眺めている。
「お母さん、この人たちが瑞子について聞きたいことがあるんだってぇ」
「はじめまして、私たち新聞の記事を読んで……」