僕等の青色リグレット
パン、パン、パン。
麻子さんは私たちの話を遮るように、手を叩き始めた。
それはまるでシンバルを演奏する猿のぬいぐるみのような動きで、リズムよく上半身を揺らしてはニコニコ笑っている。
その様子を見て「若い人と話せて嬉しいのねぇ」と目を細めた絢子さんは、庭仕事の続きがあるからと部屋を出て行った。
「麻子さん、あのぅ」
話しかけても反応はない。
私の肩に手を置いた晴登くんが、軽く頷いて、
「俺ら伝説について聞きにきたんや、瑞子さんと会えたという伝説、その方法について教えてくれんか」
そう親しげな口調で話掛け、体を屈め麻子さんと目を合わせる。
すると、麻子さんの唇が僅かに震えた。
「みず……こ」
「そうや、瑞子さん。祭りの日に会ったんやろ? どないして会ったんや」
「……」
うーん、やっぱりダメかな。
麻子さんは瑞子さんの名前に少し反応したものの、またさっきと同じように手を叩いては体を揺らしている。
その姿に、父方の曾祖母のことを思い出した。曾おばぁちゃんもやはり痴呆症を患っていて、麻子さんがしているように同じ動作を繰り返したり、突然、大きな声を張り上げたりしていた。
それは、伝えたいのに伝えられないもどかしさがあるんだよと教えて貰ったっけ。
麻子さんの、お歳の割にきれいで白くふっくらした手を見つめる。
自分の名前や言語を忘れ思う様に動けないのはさぞ辛いだろう、とその手の甲を撫ぜた時、あることに気が付いた。