我喜歡你〜君が好き〜
ジャーハオの秘書であるチューミンは突然かかってきた上司の電話に驚愕していた。

「因为可以了事情所以调整日程（用事ができたのでスケジュールを調整しろ）。」

日本語に慣れるためにと、日本にいるときはほとんどの会話を日本語で話す上司が、いきなり中国語で指示を出したのだ。

しかも「用事ができた。」と。

思わず、どのような用事なのか聞こうと思ったが、シャーハオの近年稀に見る機嫌の良さに、追求をやめることにした。

下手に聞いて機嫌を損ねるようなまではしたくない。それこそ、こちらの身が危ない。

「…できる範囲のことをやってみますが、この週末全てを仕事に変えることになりますよ。それに、そこまでしても、確保できる時間は18時以降になりますが。」
「構わない。それでいいから今すぐ仕事を持ってこい。何としても月曜の夜は時間を空けなくてはいけない。」

難色をしめすかと思っていたチューミンは予想外の上司の返事にさらに戸惑う。

おいおい…この人いったいどうしたんだ？月曜の夜って…そんなに大事な何かがあるのか？

「おい。聞いているのか？」

思考していたチューミンの耳元に絶対零度の声が届いて思わず背筋を伸ばした。声の主がここにはいないはずなのに、部屋の温度が一気に下がった気がする。

「失礼しました。…ではこれからご自宅にお伺いします。なにかお食事などお持ちしましょうか？」
「ああ、軽くつまめて日持ちしそうなものを2日ぶん頼む。」

おいおいおい…。いよいよこの人は壊れ始めたのか？食事を2日分ってことはこれから週末の全てを部屋にカンズメになって仕事をするつもりだ。
…と言うことは秘書である自分も、当然それに倣うことになってしまう…

ああ、俺の週末が。

チューミンの目の前を楽しい週末の予定が羽をつけて飛んで行ったきがした。

「…ところで…。お前は本当に俺にいい助言をしてくれるな。」
「はい？」

近年稀に見る上機嫌の上司からの突然の褒め言葉にチューミンは耳を疑った。

「お前に言われた通り、出歩いて見てよかった。…思わぬ拾い物をしたぞ。」

ククク…。と笑い声まで聞こえてきた時、ついにチューミンは受話器を耳から話して思わず覗き込んでしまった。

あの冷血鬼社長はどこへ行った？
社長が笑うところなんて年に数回あるかないか…。いつも眉間にしわを寄せて、ため息をつくか、部下に死刑宣告に近い難題を押し付ける氷のような表情なのに…。

…これは…相当な何かが起こったのだ。
…もしや、本当に女でもナンパして一夜のアバンチュールでも満喫したのか？

聞きたい。
でも聞けない。
上司のプライベートに首を突っ込むのは良くない。でも、ものすっごく聞きたい！

チューミンはムクムクと湧き出した好奇心をなんとか叩き潰し、平静を貼り付けた。

「それはようございました。では、これからお伺いいたします。失礼いたします。」
「ああ、頼んだ。」

受話器を戻しながらチューミンはデスクトップのファイルを開いた。びっちりと埋め尽くされたジャーハオのスケジュール。

ここに空白を作るのだ。しかも、指定は月曜の夜。

はぁ。

無意識に出てしまったため息を無視してチューモンはカーソルを動かし始めた。

部下に無理難題を押し付ける鬼社長だが、誰よりも多くの仕事をこなしているジャーハオをチューミンは密かに尊敬していた。

高校中退の自分を拾い、ここまで育ててくれた恩人でもあるジャーハオの命令なら…できないとは言えない。

「OK,Boss.」

チューミンの力強い返事は誰に聞かれることなく部屋に消えた。


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表紙・目次

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