寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
ベスの温かさが伝わり、張り詰めていた心が次第に落ち着いていく。
離宮で育てられたに近いセレナには、王宮にいても落ち着ける場所はなく、アンナ以外の侍女たちはみな陛下と王妃、そしてクラリーチェの世話を優先的に行っている。
侍女たちはセレナのことを『離宮の姫君』と呼び、どこかよそよそしく他人行儀な態度で接している。
週に何度か騎士に交じり訓練に励むセレナを理解できない事もその理由のひとつで、整った見た目を隠すように汗をかき、泥にまみれる彼女を、遠巻きに見ていることが多い。
悪意はないにしても、いずれミノワスターに嫁ぐセレナに率先して近づこうとする者がいないのもたしかだ。
「ベス、ミノワスターでも仲良くしてね」
セレナが心を許せるのは離宮にいるアメリアや侍女たちと、アンナ、そしてこの愛馬、ベスだけだ。
ランナケルドの王宮に自分の居場所を見つけられないまま成長したセレナは、結婚後も自分は寂しい日々を送るのかもしれないと思っている。
ミノワスターの国王夫妻はセレナが嫁いでくるのを心から喜び、国民たちもみな歓迎していると、カルロとテオは口を揃えて言っている。
何度かセレナが国王夫妻と面会した時にも、大国の指導者とは思えない人懐こい笑みでセレナを安心させてくれた。
ミノワスターのバッサリーニ国王は、三十年ほど前に最初の結婚をしたが、当時の王妃ビオラはカルロを出産後亡くなった。
その後現王妃であるロザリーと結婚し、ふたりの間にテオが生まれた。
ビオラとロザリーはふたりとも国を代表する公爵家の娘で、同じ学校に通う親友同士だった。
ビオラ亡き後王に嫁いだロザリーは、親友の忘れ形見であるカルロをわが子同然に育てた。
王太子として厳しく育てるのはもちろんのこと、国民への慈悲や愛を忘れぬよう、そして、ミノワスター王国という大国が周辺各国に及ぼすあらゆる影響力について説いてきた。
自国だけが豊かであればいいと思うのはおごりであり、いずれ我が身を滅ぼす最大の理由であると、ロザリーは何度もカルロに教えてきた。
隣国の王配となるテオにも同じ言葉を繰り返した。