寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 たとえ愛される事のない結婚を強いられるとしても、その相手がテオであれば、セレナにはミノワスターのために生き、王太子妃としても、王妃としても、全力でテオを支える自信がある。
 そして、一生懸命テオを愛し、国民から慕われるよき国母となるよう努力する。
 セレナはこれまで、何度もそう思い、夢をみてきた。
 結婚するなら、テオがいい。
 今ではその願いは決して叶わないと誰よりもわかっているが、セレナはずっと、その運命を変えようと努力していた。

「ベス、明日は離宮に行こうか……。あの川で、お昼寝でもしようね。……今日は疲れちゃった」

 苦しい時、悲しい時、いつもあの川辺で気持ちを奮い立たせた。
 テオに初めて会ったあの川で、心と体を休め、落ち込む気持ちを浮上させるのだ。
 川の流れを見ながら、十歳のセレナを抱き上げ吐息がかかるほど近くにあったテオの瞳を思い出せば、運命に抗う力が体に生まれるような気がする。
 今日、市でテオと楽しい時間を過ごし、まるで自分はテオに大切にされていると錯覚しそうな距離でふれあい、そして王宮ではクラリーチェとカルロ、そしてテオの関係に気持ちを揺らした。
 セレナは疲れ切った体をベスに預け、小さく息を吐き出した。
 すると、セレナを励ますように、ベスがセレナの額をペロリと舐めた。

「ふふっ、くすぐったいよ」

 セレナはのどの奥で笑いながら、ベスが舐めた額に手で触れた。ちょうどそこには短弓の訓練で負った小さな傷痕があった。
 指先で触れればかすかに感じる程度の盛り上がりに、セレナは泣きたい気持ちになった。


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