寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「ほんとは、こんな傷、欲しくないのに」
呟きの終わりは、涙声だ。
セレナはベスにしがみつき、溢れる涙を堪えようとした。
目の奥が熱く、のどの奥に何かが詰まっているかのように苦しい。
「……うっ。や、やだ……こんな傷、欲しくない。ほんとは槍も剣も怖いから持ちたくない。早馬で駆けるより、アメリアたちと一緒に散歩したい。領地の見回りに行くより、離宮でお料理を作って、子供たちにお洋服を作ってあげたり刺繍をしていたい」
セレナは溢れる想いを胸にとどめることができず、これまで口にした事がない本心を、涙とともに吐き出した。
クラリーチェの代わりに女王になろうと考えたのは、もちろん病弱な彼女に代わって国の先頭に立とうと思ったからだが、一番の理由は別にある。
クラリーチェには心も体も穏やかに静かに過ごしてもらいたいと、セレナが願っているのは嘘ではない。
けれど、セレナが女王になるという事は、すなわちテオと結婚できるという事だ。
それが簡単に実現するとは思えないが、クラリーチェと違って体力と運動能力に長けているセレナは、それを武器にして、将来クラリーチェに代わって自分がランナケルドの女王になれるのではないかと考えた。
もしもその可能性が少しでもあるのなら、アメリアとの大好きなお菓子作りの時間を乗馬の練習にあて、城の庭園で庭師と一緒に植樹作業に励むわくわくする時間を歴史の勉強にあててもいい。
それに、刺繍や編み物やお料理も。
セレナは自分がやりたいことを諦め、本当はそれほど、というよりもまったく興味がなかった訓練や勉強に自分の時間の多くを費やしてきた。
生まれながらの運動神経の良さとセンス、そして努力。
それらがうまく作用して、セレナは騎士団の鍛錬についていったのだ。