寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



「散歩できるくらい元気なのはいいけど、急に無理しないでね。ベッドで寝てばかりで体力もないだろうし………」
「あ、それは大丈夫よ……じゃない、大丈夫……だと思うし、たまには外の空気も吸わなきゃ体がなまって……というか、よくなるものもよくならないし」

 クラリーチェは自分の言葉がセレナにどう伝わっているのかと不安なまま答えるが、何を言っても空回りしているようで、焦っている。
 まさかセレナがここにいるとは思わなかったのだ。

「え、と。どうしてセレナはここに来たの?」

 クラリーチェは落ち着いた口調を心がけるが、その目は泳いでいる。
 クラリーチェを心配しているセレナは、そんなクラリーチェの表情や上ずった声に気づかない。

「どうしってって、アメリアと朝食を持ってきたら、部屋にいないからびっくりして」
「朝食を? もしかしたら、アメリアと一緒に準備してくれたの?」
「そうよ。体調がよくないって聞いたから、お姉様のために早起きしたのに」

 ここ数日、アメリアが朝食の準備をしているが、いずれミノワスターに嫁ぐセレナとクラリーチェが一緒に過ごせるよう、アメリアが配慮したのだ。

「お姉様と一緒に食事をするのも久しぶりね。昨夜からワクワクしてたのよ。早く食べましょう。アメリアの焼きたてパンもあるわよ」

 セレナはクラリーチェの腕に自分の手を添え、部屋に向かって歩き出した。

「あら?」

 セレナはクラリーチェの腕が硬いように感じた。
 違和感を覚え、そっと二の腕に手を動かしてみれば、そこもたしかに硬い。
 その硬さは普段から鍛えている自分の腕の硬さに似ていて、思わずぎゅっと力を込めてしまった。
 ハッとしたクラリーチェは、慌ててセレナから離れた。

「あ、あの、くすぐったいから、支えてくれなくても、ひとりで大丈夫」

 乾いた笑い声を上げながら、クラリーチェはセレナを置いてひとりでさっさと部屋に向かう。
 普段、体をかばうようにゆっくりと歩いているクラリーチェが足早に歩く姿は軽やかで、その後ろ姿をセレナは驚きながら見ていた。
 体調が悪くて食事もできないはずじゃなかったのかと戸惑いつつ、部屋からアメリアがセレナを呼ぶ声が聞こえ、慌てて後を追った。

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