涙が落ちたあの日から
Epilogueーあの日の涙ー
プツッ
【ーー市で起きた高齢者追突事故の続報です。72歳の男性に金を渡し、ミュージシャンのMoonこと水月匡さんを、事故に見せかけ殺害を命じたとして、同市に住む山本拓真容疑者を殺人教唆の疑いで再逮捕しました】
サイドボードに置かれたリモコンを手にすると、テレビの電源を切った。
毎日同じ時間のニュース番組が、私の目覚まし代わりだ。
「ミャー」
「ムーンおはよう」
いつものように抱きかかえ、嫌がるムーンに無理やりチュウをする。
「ごはん入ってるからね。学校終わったらすぐ帰ってくるから」
私はムーンに手を振ると、いつもより早く家を出た。
毎朝の姉からの電話も週に数えるくらいになって、今は母から毎日のように電話がくるようになった。
あまりにも色々あり過ぎた私を心配して、しょっちゅう電話してくる母に参っていると、『数年ぶりの"母"を、しっかりやりたいんじゃない?』と、姉は笑って言っていた。
その気持ちは、ありがたいけどさぁ……。
半年近くにもなれば、早朝のバイトもさすがに慣れた。
冬に近付き、朝のこの時間の外はまだ真っ暗だ。
暗い時間、外に出ることに怯えていたあの頃。
今はもう、そんな思いもしなくなった。