エリート上司の過保護な独占愛
(課長に知られた。私が課長とつき合うために、色々やったことを)

『その話、裕貴にはしないほうがいい』

 慎吾の声が脳内で再生された。

(きっと、私のこと軽蔑してる……)

 歩きながら、足元を見る。特別はデートの日だからと、少し高めのヒールを履いてきていた。そのことが余計気持ちをみじめにする。

(本当の私は、こんな靴が似合わないんだ。無理に作った偽物の私……)

 どんどん卑屈になっていく。エレベーターの前に到着し、ボタンを押した瞬間扉が開く。乗り込み扉が閉まる間際、裕貴の姿が隙間から見えた。

 しかし紗衣は扉を開こうとはせず、そのまま一階に向かった。

(今会ったところで、きっとうまく話せない。後で連絡して今日はキャンセルしてもらおう)

 こんな状況で逃げるなんてこと、するべきじゃない。わかっているけれど、今はそうすることしかできない。

 エレベーターに乗っている時間が長く感じた。一階に到着してやっと開いたエレベーターの扉の間を縫うようにしてフロアに降り、足早に出口に向かう。

「待って! 沙衣」

 後ろから肩をつかまれて振り向く。そこには先ほどまで八階にいたはずの裕貴の姿があった。

「課長……どうして」

 階段を使ってきたのか、額には玉のような汗をかき、話をするのも苦しそうなほど息切れをしている。
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