エリート上司の過保護な独占愛
 店内にはお湯が沸く音と、カウンターで作業をする音だけが聞こえる。沙衣はじっと目の前にあるシュガーポットを見つめて、現実逃避していた。

(ここでこうやっていても、仕方がないのに)

 どんどんと沈んでいく気持ちをどうしたものかと考えていると、すっとティーカップがさし出された。奥さん特製のロイヤルミルクティーだ。

「いただきます」

 カップを持ち上げて、一口飲む。いつも通り茶葉のいい香りとミルクのまろやかさが口の中に広がる。その一口でそれまでずっとこわばっていた体がほんの少し和らいだ。

「おいしいです」

 頑張って笑顔を作ったつもりだったけれど、どうやらうまくいっていなみいたいだ。カウンターの中のふたりの、沙衣を見る痛々しい表情を見ればわかった。

(本当においしいんだけどな……でも、ここでも気を遣わせてるんだ)

 知り合いに心配をかけるくらいなら、立ち寄らなければよかったと、小さい後悔が滲む。何をやってもうまくいかない自分がなさけなくてふがいない。

 かといって、そそくさと退散してはもっと心配をかけてしまう。沙衣は深く息を吐いて紅茶をもう一口飲んだ。

「最近は平日に来ることが多いね。前は、土曜や日曜の日中が多かったのに」

 マスターがグラスを拭きながら、明るい声で言った。きっと何か話題を振って沙衣の気を紛らわせようとしたのだろう。
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