エリート上司の過保護な独占愛
「これも――」

「いや、それは紗衣にプレゼントしたものだから。受け取れない」

 立ち上がると、最後に紗衣の顔を見た。

「ひとりで帰れるか? 紗衣」

「はい」

 これが“紗衣”と呼ばれる最後になる。最後まで優しい言葉をかけてくれた裕貴のことを、一生忘れないと誓った。

 カフェの自動ドアが閉じるまで、未練がましいと思いながらも裕貴を目で追う。彼の姿が完全に見えなくなった瞬間、頬に涙が伝った。

 決壊した涙腺は紗衣の意志の力ではどうすることもできず、どんなに拭っても拭っても溢れ出る涙を留めることが出来ずに、人目を憚らずにしゃくりあげて泣いた。

 本当に好きだった。初めての恋だった。そしてこれから先彼よりも好きな人が現れるとも思えず、最後の恋だ。でも、紛れもなく紗衣にとっては“本物の恋”だった。

 それが終わってしまった……。

 彼の未来を守れたのだからと自分に言い聞かせようと思っても、この悲しみはごまかしきれない。

 それでも、失ったものばかりではないはずだ。

 裕貴から与えられた愛は、紗衣に自信を与えてくれた。誰にも振り向かれないと思っていたのに、彼に恋をして自分を変えることができた。

 たとえ短い間でも、裕貴が隣にいてくれた。そのことはこれからもずっと心に残る宝物だ。

 それを糧にして、明日からは恋心をひた隠しにして完璧な部下を演じなくてはいけいない。裕貴がドイツに旅立つそのときまで。
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