エリート上司の過保護な独占愛
 あの日から一度だけ、ふたりが話しをしている姿を目撃したことがある。覚悟はしていたけれど、やはり辛いもので思わず目をそむけてしまった。

 これでは裕貴に未練が残っていると思われてしまう。

 色々な意味で気合いを入れて、応接室の準備にむかった。

 午後十五時五十分。

 大迫と共に会議室で待っていると、最初に現れたのはユニヴェールの藤本だった。

「いよいよですね」

「はい。まぁ、ここからが本番ですけど」

 藤本の言葉に、大迫はネクタイをギュッと締め直して気を引き締めていた。

 この企画の話が持ち上がって以来、藤本とは今までにないほど色々な話をした。ときに意見をぶつけ合いながら結果を追及していくうちに、より強い信頼関係が生まれてきたと思う。

 あとは、みどりの到着を待つだけなのだが――。

 約束の時間の十七時ギリギリになって裕貴とともに現れたのは、みどりではなくひとりの男性だった。歳はおそらく五十代。ジャケットこそは羽織っているが、ネクタイを締めているわけではない。しかし洗練されたスタイルが、大人の上品さを漂わせていた。

 一瞬、会議室にいる面々が不思議そうな顔をする。しかし次の瞬間、藤本が声を上げた。

「あ、桧山ケイジ……さんっ!」

 慌てて“さん”づけしたけれど、思わず呼び捨ててしまうほどの驚きだった。それは紗衣も大迫も同じだった。
< 170 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop