エリート上司の過保護な独占愛
「このたびは、妻がご迷惑をかけたそうで、大変申し訳ございません」

「えっ? あの――」

 桧山は頭を下げて謝罪している。

(もしかして、あのこと……ご存知なの?)

 隣にいる裕貴を見ると、ゆっくりとうなずく。

「うそ……でしょう」

 身体の力がぬけて、敬語を使う余裕さえない。

「先日、こちらの天瀬さんからお話を窺いました。たとえどんな状況であったとしても、プライベートの問題を仕事に持ち込むとは、完全にルール違反です。仕事のパートナーとしても……そして彼女の夫としても、心から謝罪します」

 紗衣は言葉が出てこなかった。今この状況を把握するのが精一杯だ。

 桧山は裕貴から話を聞いたと言った。ということは、紗衣とみどりの会話の内容を知っているということだろう。

「あの、私――」

 慌ててうまく言葉が出てこない紗衣に代わって、言いたいことを汲み取った裕貴が、経緯の説明をしてくれる。

「紗衣が理由もなく別れ話を切り出すなんて、なにかわけがあると思っていたんだ。そうしたら、すぐに原因がわかった。みどり……さんから、すぐに私に連絡が入り、紗衣に言ったことと同じようなことを言った。そこでピンと来たんだ。きっと彼女なら、俺よりも先に君に話をしているだろうってね」
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