エリート上司の過保護な独占愛
 実際はそのとおりだ。しかし、裕貴は彼女の話には乗らなかった。

「いくら大きなな仕事の話でも、彼女の要求を受け入れるわけにはいかなかった。大事なものを失うわけにはいかないからね。だから俺は彼女の上司である桧山でもあり、夫の桧山さんに連絡をとったんだ」

 目の前に準備された選択肢のどちらかしか選べなかった紗衣とは違い、裕貴はあらたな選択肢を見つけてそれを実行に移したのだ。

「彼女には悪いと思ったけれど、この問題を一気に解決できるのは桧山さんだけだからね」

 桧山はもう一度頭を下げた。

「本城さん、そして天瀬さんにもご迷惑をおかけしました。これは全て私の不徳の致すところです。もう少し妻の話に耳をかたむけてやるべきでした。そうすれば彼女はこんな暴走をせずにすんだ」

 悔しさをにじませる表情を見て思う。世間一般には憧れの夫婦だとしても、ふたりの間にはふたりにしかわからないことがたくさんあるのだと言うこと。

「あの、それでみどりさんは?」

「今は、自宅で謹慎させています。これから戻って、彼女ととことん話しをしたいと思っています。私たち夫婦のことで、あなた達を引っ掻き回してしまって申し訳ない。お詫びというのも変ですが、このプロジェクトに関しては、スタジオHが総力をあげてやっていきますので、今後共よろしくお願いいたします」

 再び深く頭を下げた桧山に、「こちらこそよろしくお願いいたします」と返すのが、今の紗衣には精一杯だった。
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