御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「蓮杖さん、飲んでるー?」
声を掛けてきたのは、ショートカットのかわいらしい雰囲気の女子だった。
営業部の夏川ゆず。早穂子より半年早く、春に入社していたはずだ。何度か社内で話したことがある。
二十四歳で、前職も営業だと言っていたはずだ。
「えっ、あ、はい、飲んでます」
「また敬語になってる~敬語じゃなくていいって言ったじゃん。半年先に入っただけで、同期でしょ~それに蓮杖さんのほうが一応年上なんだから」
「あ……そっか。うん。わかった」
真面目に、緊張した様子でうなずく早穂子を見て、ゆずは頬を緩ませた。
そしてしばらく早穂子と肩を並べてテーブルの上の料理を眺めていたが、首を振って、早穂子の腕をつかんだ。
「てか蓮杖さん、まずローストビーフに並ばないと! ここのローストビーフ、絶品なんだよ~ぶっちゃけこれしか食べなくていいレベルだよ!」
「え、そうなの?」
「そうだよっ!」
そしてゆずに引きずられるようにして、ローストビーフを切り分けているシェフの列に並ぶことになった。
「なんか蓮杖さんって見た目と違ってホワホワしてるよね」
ゆずが目をキラキラさせながら早穂子を見上げた。
早穂子の背が高いというよりも、ゆずが平均以下で、小さくてかわいいのだ。
人懐っこい、小動物のような愛らしさがある。
そういう人に好かれる要素が自分にはまるでないと思っている早穂子は、そんなゆずが少しだけまぶしい。