御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
一方涼音は饒舌に言葉を重ねる。
「だって、別れたら気まずいでしょう?」
「……」
「私だってそうだったし」
「え?」
「ふふっ……」
涼音は思わせぶりに笑うと、「じゃあまた」といきなり立ち上がって、ふわふわした足取りで楽しく歓談しているほかのグループのほうへと向かって行ってしまった。
(な……な……なにそれ……!)
そこでようやく気が付いた。
自分は涼音にどうやら軽く嫌われているらしい、ということに――。
早穂子はそれから部屋にひとりで戻り、もんもんとした気持ちを抱えたままお風呂に入った。
猫足のバスタブはかわいらしく、アメニティも充実していて、普段の早穂子ならテンションはぐーんと上がっているはずだったのだが、いまいち盛り上がらない。
原因はわかっている。さきほどの涼音のけん制だ。
彼女の発言は、始と涼音が昔付き合っていたというようなふうにも聞こえた。
というかそれ以外にどうとっていいかわからないくらい、現在彼と付き合っているはずの早穂子に、ぐっさりと刺さる発言だった。