御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
(始さん、ぐっすり眠ってる……)

これは決して始に言えないことなのだが、最近彼と体を重ねた後でも、最初の頃のように眠れなくなっていた。
理由はわかっている。

体で感じて、心で感じて、早穂子の細胞のすべてが始でいっぱいになって、興奮して眠れないのだ。

心がうるさいくらいざわついて、胸が締め付けられて、寝ているどころではなくなってしまう。

勿論、時間が経てば人肌のぬくもりにウトウトするし、短い時間ではあるがちゃんと眠れる。
昔ほどの焦りはない。

だが早穂子は、彼と体を重ねた後、今日のように眠ったふりをしているのだった。

始にはどうしても知られたくなかった。

早穂子にとって山邑始は“遠いけれど近い人”だった。

若き副社長としてマスコミでもとりあげられていた山邑始は、面接で早穂子の不眠症の話を聞いても、一度も困った顔や戸惑った表情をしなかった。それだけで早穂子はどれだけ救われたことだろう。

(不眠症と不感症……ウィンウィンだからって言ったのは始さん……知られたら、もう私が彼と体を重ねる正当な理由がなくなっちゃう……そばにいられなくなる……)

理由もなく、あなたが好きと言えば彼を困らせる。
山邑リゾートの御曹司の彼と自分では釣り合わない。

だから早穂子は寝たふりをして夜を過ごすのだ。

(ねぇ始さん……あなたの“気持ちいい”は私限定なの……?)

それを問いかける勇気が今の早穂子にはなかった。
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