御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

始の返答はいつも通り完璧だ。

だからいつもの早穂子なら、それだけで十分満足したはずなのだ。
そばにいられるだけでいいと思っている、いつもの早穂子なら――。

だが、今、ここにいる早穂子の心は、彼から違う言葉を望んでいた。

涼音にうっすらと傷つけられた上に、母とうまくいかなかった自分の心を、始から『君は特別な女性だ』と言って、慰めてもらいたかったのかもしれない。

自分勝手だし、わがままだと思うが止められなかった.

だからつい――言ってはいけない言葉を口にしてしまっていた。

「それは、私じゃなくてもいいんじゃないんですか?」
「――え?」

驚いたような始の声色に、早穂子の胸の奥がひやりと冷たくなる。けれど止まらない。

「だからっ……私じゃなくても……」
「サホちゃん」
「もう、本当は……」
「そこまでにしようか」

ぐいっと肩をつかまれて、うつぶせになっていた早穂子の体は起こされてしまった。

「あっ……」

後ろから始の腕が伸びて、上半身が抱きしめられる。

「どうしたの、急に。誰かになにか言われた?」
「っ……」
「……もしかして涼音かな」

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