御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
始という人は、勘が鋭すぎてたまに息が止まりそうになる。
だがそれというのも、自分が珍しく駄々をこねるようなことを口にしたからだ。
(私のばか……)
早穂子は自分を責めながら、ため息をついた。
「――ごめんなさい、私……」
「いや、いいよ。っていうか、俺こそごめんね。すぐに気が付いてあげられなくて」
そして始は早穂子を背後から抱きしめた腕に力を込める。
「涼音はなんて?」
そう問いかける始の顔は相変らず優しげだったけれど、早穂子は同時に彼の言葉の中に、なにか不穏なものを感じとっていた。
「――あの、私が勝手に彼女の言葉をおかしな感じでとっただけで……その……えっと……」
「いいから。正直に言って」
ぴしゃりと始が口を挟む。
「……」
迷ったがここまで言われたらこれ以上黙っていることは難しそうだった。
これも自分のせいだ。
落ち込みながら、早穂子はぽつりぽつりと口を開く。
「その……始さんが、自分のテリトリーの中にいる私を選んだのが、珍しいって……」
ここで“恋人”と口に出せなかった自分が情けなくもあるが、早穂子にはこれが精いっぱいだった。
「テリトリーか……ああ、なるほど。そういうことか」
始はそれを聞いて、軽くうなずいた後、早穂子の耳元で軽くため息をついた。