御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
ローストビーフを食べて軽くワインを飲んだあと、ゆずに付き合って歯磨きをしメイクまでなおす。
当然、そのあとは山邑始のもとに行こうと誘われたが、早穂子は丁重に断らせてもらった。
「えーっ、蓮杖さん行かないの?」
ゆずが信じられないと言わんばかりに目を丸くする。
確かにそうだろう。
今日の懇親会に出ている新入社員の目当ては、男女問わず山邑始だ。彼と少しでも話がしたいと思うのが当然の流れだ。
だが早穂子だって別に、避けているわけではない。
むしろ話せるものなら話してみたいと当然思う。
けれど同時に、自分にとって山邑始は、ただの憧れと呼ぶには少しだけ距離が近すぎる。
下手に触れてしまえば、もしかしたら好きになってしまうのではないかと、そんな気持ちになってしまう。
それだけは絶対に避けたかった。
「……とてもあの輪の中に突入できそうにないから、やめとく」
「そっかぁ……じゃあ私は行ってくるね」
「うん、がんばって」
「らじゃー!」
ゆずはパワフルにガッツポーズを決めて、パウダールームを飛び出していった。