御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
だがそこでふと、早穂子の脳内にピコン、と小さなアイデアが浮かんだ。
「あのね……もし今日、予定がないならうちに来ない? 実はその……友達がうちに来る予定だったんだけど、なくなっちゃったから。いろいろ用意していた料理とか、無駄になっちゃうなあって、悩んでて」
「ああ……さっきのはその連絡だったの?」
勘の鋭いゆずは、納得したようにパチンと顔の前で手を叩く。
「そう……そうなの。急に仕事が入ったとかで」
「まぁ、そういうの社会人あるあるだよね~。わかる……。学生の頃みたいにはいかないんだよねぇ……」
ゆずはうんうんとうなずいた後、
「わたくし、予定はありませんので、喜んでお伺いします」
と、芝居がかった様子で、畏まったように一礼した。
「ふふっ、よかった。じゃあまた仕事終わったら、エントランスで」
「うん、楽しみにしてるね! お誘いありがとー!」
元気よく手を振って化粧室を出ていくゆずに、手を振りかえしながら、早穂子はゆっくりと息を吐いた。
心の中にたまっていた、澱のようなものが少しずつはれてゆく。
(夏川さんがいてくれて、よかった……)
彼女のことを利用するようで心苦しいが、正直、今晩は一人でいることに、耐えられる気がしなかったのだ。